静岡県浜松市出身のDF伊藤洋輝は、ジュビロ磐田のアカデミーから出発し、J2でのプレーを経てドイツに渡り、世界的名門FCバイエルン・ミュンヘンに所属する日本代表ディフェンダーです。
188cmの長身と左足から繰り出す高精度のキック、ポジションを問わない対応力でドイツの地に着実に足跡を刻んできました。
バイエルンでは幾度もの中足骨骨折という試練に見舞われながらも、リハビリを続けています。その姿勢は選手としての技術だけでなく、人間としての強さも物語っています。
原点と学生時代
サッカーとの出会いは幼少期にさかのぼります。地元・浜松市ではマリオフットサルスクールに通い、サッカーとフットサルの両方に親しんで育ちました。
小学4年生の春休みには、ブラジルの名門サントスFCの下部組織のセレクションに合格し、短期留学を経験しています。
小学校卒業とともにジュビロ磐田のU-15へ進み、U-18まで磐田のアカデミーで研鑽を積みました。
2017年5月、高校3年生の段階でトップチームへの昇格が決まります。通信制高校に編入してトップの練習に帯同するルートでプロキャリアをスタートさせました。
同年にはトゥーロン国際大会へのU-19日本代表召集を皮切りに、各年代別代表でも存在感を発揮します。
U-15からU-21まで多くの年代別代表に選ばれました。
磐田の育成組織で磨かれた守備の基礎と、フットサルで培われたボール扱いの感覚が後のプレースタイルの礎となっていったのです。
プロ入り後の歩みと転機
2018年に磐田のトップチームでJリーグデビューを果たしましたが、当初はなかなか出番をつかめない日々が続きました。
2019年には出場機会を求めて名古屋グランパスへ期限付き移籍します。
そこでも主力の座を奪うには至らず、悔しい経験を重ねました。
同年のU-20ワールドカップ(ポーランド大会)にはU-20日本代表として出場し、チームの16強入りに貢献します。
国際舞台では存在感を示した一方で、クラブでの立ち位置はまだ不安定でした。
転機となったのは、磐田に復帰した2020年シーズンです。センターバックのポジションで定位置をつかみ、J2で37試合に出場。翌2021年もレギュラーとしてプレーし続けました。
そのパフォーマンスが欧州の目に留まります。かつてボルシア・ドルトムントでJ2時代の香川真司をスカウトしたスヴェン・ミスリンタートが、伊藤の才能を見出しました。
2021年6月、VfBシュトゥットガルトへの期限付き移籍が実現します。
加入当初はBチームに入る予定でした。しかしトップチームにけが人が続出するなど状況が重なり、シーズン前の合宿からトップに帯同します。
開幕から間もなくレギュラーへと定着しました。11月には利き足とは逆の右足で鮮やかな移籍後初ゴールを決めます。
ブンデスリーガ公式サイトの「11月ルーキー・オブ・ザ・マンス」や「今季リーグデビューベスト11」に選出されました。市場価値は加入時の推定移籍金の8倍近くにまで急騰します。
2021-22シーズンの最終節では、コーナーキックからのボールを頭でそらして遠藤航の決勝点をアシストしました。
チームの逆転残留に貢献し、磐田ユース出身の日本コンビとして印象的な場面を演出します。
最終的に2022年5月、シュトゥットガルトへの完全移籍が決定。同日に日本代表への初招集も受け、6月のパラグアイ戦でA代表デビューを果たしました。
2022年カタールW杯メンバーにも選出され、グループリーグ第2戦のコスタリカ戦で出場します。
チームはベスト16に進出したものの、伊藤個人にとっては試練の大舞台ともなり、その後のキャリアへのモチベーションにもなりました。
シュトゥットガルトでの3シーズンを通じ、公式戦97試合に出場します。2023-24シーズンはブンデスリーガ2位で終えたチームの守備陣の主力として躍動しました。
2024年夏、FCバイエルン・ミュンヘンへの移籍という新たなステージを迎えます。
しかしプレシーズン中のトレーニングマッチで相手選手との接触により右足の中足骨を骨折しました。
その後リハビリ中に再発し、11月には再手術を余儀なくされます。それでも2025年2月12日のチャンピオンズリーグ・プレーオフファーストレグのセルティック戦でバイエルン移籍後初出場を果たしました。
270日以上ぶりの公式戦復帰でした。
復帰後は昨季王者レバークーゼンとの試合でも左サイドバックとして先発出場し、無失点に貢献。翌節のフランクフルト戦でもバイエルンでの初ゴールをマークしました。
しかし3月のザンクト・パウリ戦で再び同箇所の中足骨を骨折し、またも長期離脱を強いられます。
それでもシーズン終了後には、チームのブンデスリーガ34度目の優勝セレモニーに加わり、優勝プレートを掲げました。
ブンデスリーガで日本人選手の所属チームが優勝したのは史上5人目のことです。
プレースタイルの特徴と主な実績
伊藤洋輝のプレーを一言で表すならば、攻守両面で強みを発揮する現代型ディフェンダーです。
188cmの高さを生かした守備と、左足の強烈なキック力を持つ守備のオールラウンダーという評価が定着しています。
センターバックとしての空中戦の強さ、左サイドバックとしてのライン突破能力に加え、3バックの一角や左ウイングバックとしての攻撃参加もこなす汎用性は、高い戦術理解と体力的な素地に裏打ちされています。
ブンデスリーガデビューのシーズンには、チーム最多となる平均96回のボールタッチを記録し、パス成功率87%を誇りました。
デュエルの勝率は69%、トップスピードは時速34.1kmを記録するなど、技術と身体能力の特長を数字でも示しています。
バイエルンのスポーツ・ディレクターであるクリストフ・フロイントは「ヒロキは長身でアグレッシブ、左足から高精度のキックを放ち、汎用性にも優れている」と評価しています。
代表歴においても、U-15からA代表まで長きにわたり日本のユニフォームを着続け、2022年カタールW杯・2023年アジアカップへの参加を果たしました。
A代表デビューは2022年6月2日のパラグアイ戦で、代表でも左の守備ラインに欠かせない存在として実績を残しています。
まとめ
J2での不遇な時期、名古屋での日々、そしてバイエルン移籍後に三度にわたって同じ箇所を骨折するという試練。
伊藤洋輝のキャリアは、順風満帆とは程遠いものでした。一つひとつの逆境が彼を鍛え上げてきました。
3度目の骨折離脱の際、自身のインスタグラムに「怪我と批判に負けて終わるわけがない」と心中を綴っています。
ドイツ随一の名門クラブでレギュラーとして活躍するという目標は、まだ完全には実現していません。
しかしバイエルンが公式に「ファイターである」と認め、全力でサポートする姿勢を示しているように、彼への期待は揺らいでいません。
J2からバイエルン・ミュンヘンへ。この軌跡の続きはこれから書かれていきます。完全復帰を果たした伊藤洋輝が再びピッチに立つ日を、多くのファンが待っています。























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