FC町田ゼルビアは、1989年に創設された「FC町田トップ」を前身とし、サッカーが盛んな「市民の街・町田」の象徴として歩んできました。
1998年に現在の名称へと改称。クラブ名の「ゼルビア」は、町田市の木であるケヤキ(Zelkova)と、花のサルビア(Salvia)を組み合わせた造語です。
地域密着を掲げるこのクラブが、いかにして日本サッカー界の既存の勢力図を塗り替える存在になったのか、その軌跡を紐解きます。
Jリーグ参入と「地獄」の洗礼(2012年 – 2015年)
町田ゼルビアがJリーグの門を叩いたのは2012年のことでした。
JFLでの激戦を勝ち抜き、悲願のJ2昇格を果たしたチームでしたが、そこで待っていたのはプロの厳しい洗礼でした。
当時のJ2は非常に競争が激しく、町田は最下位に沈みます。
さらに当時のルールではJ2最下位はJFL(翌年からJ3が創設される過渡期)への降格が定められており、参入わずか1年でJリーグの舞台から姿を消すという、屈辱的な経験を味わいました。
この「1年での降格」はクラブに大きな衝撃を与えましたが、同時に「真に戦える組織」への脱皮を促す契機となりました。
2014年に新設されたJ3リーグに参戦し、2015年の入れ替え戦で大分トリニータを破り、3年ぶりにJ2復帰。
ここから町田の「逆襲」が始まります。
サイバーエージェント傘下入りと構造改革(2018年 – 2022年)
2018年、クラブの歴史を大きく変える出来事が起こります。
IT大手サイバーエージェントによる買収と子会社化です。
藤田晋氏がオーナーに就任し、豊富な資金力と経営ノウハウが注入されました。
当初は「FC町田トウキョウ」への改称案が出るなどサポーターとの摩擦もありましたが、藤田氏の「本気でJ1、そしてアジアを目指す」という姿勢は、次第に結果として現れ始めます。
トレーニング施設の充実やスカウティング網の強化、そして何より勝負に徹する姿勢がクラブ内に浸透。
J2の中堅から上位へと安定した成績を収めるようになり、悲願のJ1昇格へ向けた準備が着々と進められました。
黒田剛監督の就任とJ1での旋風(2023年 – 2025年)
2023年、青森山田高校を日本一の強豪へと育て上げた黒田剛氏を監督に招聘するという「異例の抜擢」が、町田を覚醒させました。
高校サッカー界のカリスマは、プロの世界でもその徹底した「勝負へのこだわり」を貫きました。
2023年: J2で圧倒的な強さを見せ、2節を残してリーグ優勝と初のJ1昇格を決定。
2024年(J1デビュー): 昇格初年度ながら、ロングスローや徹底したハイプレス、効率的なセットプレーを武器に快進撃を続けました。
「町田のサッカーは美しいか否か」という論争を巻き起こしながらも、結果で周囲を黙らせ、最終的にリーグ3位という驚異的な成績でフィニッシュ。
2025年: 初のアジア舞台となるACLE(AFCチャンピオンズリーグ・エリート)にも挑戦。
リーグ戦では他クラブからの徹底的な対策に苦しみながらも、夏の8連勝などで盛り返し、最終的に6位でシーズンを終えました。
2026年現在、町田ゼルビアはもはや「昇格組」ではなく、誰もが警戒する「J1の常連強豪チーム」のような存在として、リーグの優勝争いに欠かせない顔ぶれとなっています。
クラブを支えた主な所属選手
町田の強さは、歴史を支えた功労者と、近年加わった圧倒的な個の力の融合にあります。
谷晃生(GK)
2024年から守護神として君臨。
圧倒的なセービング能力と、最後方からチームを鼓舞するリーダーシップで、町田の堅守を支えています。
日本代表としても活躍し、2025シーズンのJリーグベストイレブン候補にも名を連ねるなど、今やJリーグを代表するGKです。
エリキ(FW)
2023年に加入したブラジル人ストライカー。
爆発的なスピードと決定力を誇り、J2優勝の立役者となりました。
大怪我を乗り越えてJ1の舞台でも輝きを放ち、町田の攻撃に「質」をもたらす特別な存在です。
昌子源(DF)
2024年に加入。鹿島アントラーズなどで数々のタイトルを手にしてきた経験をチームに注入しました。
黒田監督が求める「隙のない守備」を体現するディフェンスリーダーであり、若手選手たちの精神的支柱となっています。
望月ヘンリー海輝(DF)
大学経由で加入し、瞬く間に右サイドバックの定位置を確保。
190cmを超える長身ながら圧倒的なスプリント能力を持ち、2024年には日本代表にも初選出されました。
「町田から世界へ」を体現する、クラブの新時代のアイコンです。
深津康太(DF)
クラブの苦しい時代を知るレジェンド。
JFL、J3、J2と町田の歩みと共に戦い続けた元キャプテンです。
現在は他クラブへ移籍しましたが、彼の見せた献身性と「町田魂」は、今の選手たちにも受け継がれています。
相馬勇紀 / 中山雄太(2025年加入組)
欧州帰りの代表クラスが相次いで加入したことは、町田の資金力と野心の象徴です。
特に相馬選手のサイドからの突破と中山選手の多機能性は、2025シーズンのACLEでの躍進に大きく貢献しました。
まとめ:町田が示す新しい「勝利」の形
FC町田ゼルビアの歴史は、効率と結果を追求する現代サッカーの最前線そのものです。
市民クラブとしての温かさを持ちつつ、ピッチ上では冷徹なまでに勝利を追い求めるその姿勢は、Jリーグに新しい風を吹き込みました。
2026年、シーズン移行(秋春制)を控える過渡期において、町田は次なる目標である「国内リーグ制覇」と「アジアの頂点」を現実的な射程に捉えています。
等々力(川崎)や調布(FC東京)といった近隣の強豪との「東京クラシック」や「多摩川クラシコ」を超えた、日本全体の主役としての町田の戦いは、これからも続いていきます。












コメント